高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(64)

第6部・昼も夜も(4)
精肉店 小銭で買える家庭の味

 低価格で買い求めやすいのが、コロッケの魅力の一つだ。高岡市大坪町三丁目の精肉店「ミートくるま」では、開業時から今も変わらず一個二十八円でコロッケを提供しており、小銭を握りしめて訪れる子どもの姿をよく見かける。

●「感動伝えたい」
 「ミートくるま」は一九七七(昭和五十二)年、高岡市本丸町で開業した。「子どものころに感動した肉のおいしさを伝えたい」。こう話す車捷二郎社長(65)は食糧不足の時代、親せきの人たちが年に一度、里帰りする時だけ味わえたすき焼きが忘れられず、精肉店を家業に選んだ。
 開業前に別の精肉店で働いたが、当時から精肉店の総菜のメーンはコロッケで、コロッケ作りは修業の一環だった。開業後は、妻の眞佐代さん(59)が洋食店にクリームコロッケの調理法を習いに行くなどして腕を磨いた。
 「ミートくるま」では八種類のコロッケを並べているが、一番人気は二十八円の「まごころビーフコロッケ」だ。具材はジャガイモと牛ひき肉に、多めの玉ネギを加えて甘みを出している。油はラードではなく大豆油を使い、子どもの胃にもたれないよう配慮している。そのためか、お茶菓子代わりにコロッケを買いにくる六十―七十代の客も多い。

コロッケを作る車社長(中央)と眞佐代さん(左)、麻紀さん=高岡市大坪町3丁目

●不思議な力
 以前、車社長が得意先にコロッケを差し入れた際、従業員から歓声が上がり、その場で包み紙から出して食べてくれたことがあった。「コロッケには大人を童心に帰らせる不思議な力がある。昔と変わらない値段で提供したいんです」。車社長は低価格にこだわる理由を説明する。
 昨年十二月に大坪町に店を新築移転した。同じ日に二男公男さん(30)が結婚し、妻麻紀さん(28)が店を手伝ってくれるようになった。眞佐代さんはコロッケの調理法を麻紀さんに伝授し、毎朝、目が覚めたら鍋に火をかけ、ジャガイモをゆでるのが麻紀さんの日課となっている。
 三十円を握りしめてコロッケを買いに来る小学生、毎日五個ずつコロッケを買っていく年配の女性に加えて、最近は高岡コロッケの評判で県外からの客も見られるようになり、麻紀さんにやりがいを与えてくれている。
 家族が力を合わせて揚げたてを毎日提供する。「ミートくるま」のような家庭的な温かさを持つ店は「コロッケのまち高岡」に不可欠な存在といえる。

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