高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(43)

第4部・地域まるごと(3)
氷見牛 全国発信へ連携の期

 富山空港に先月、氷見牛を紹介する看板が登場した。設置したのはJA氷見市や氷見市、生産農家でつくる氷見牛ブランド促進協議会で、観光や商用で富山を訪れる人々に売り込むのが狙いである。氷見牛はきめ細い肉質と口溶けのよさで料亭やレストランからの引き合いが増えている。氷見はブリなど海の幸のイメージが強い土地だが、協議会では新しい特産品として全国発信に力を入れる。ご当地グルメとして「高岡コロッケ」の先輩格といえるのかもしれない。
 氷見市は県内有数の肉牛の産地として知られるが、かつては上市町や立山町などと合わせて「富山牛」と呼ばれていた。有名な肉牛には「松阪牛」や「飛騨牛」のように育った土地の名前が付けられている。十数年前、氷見の生産農家が他の産地と差別化を図るため「氷見牛」という名称で売り出した。

完成度の高い肉質で知られる氷見牛=昨年12月、氷見市小滝

●和牛への転換
 もっとも、名称を付けただけで売れるものではない。品質が備わってこそである。生産農家では外来種のホルスタインなどから、肉質が高いとされる和牛への転換を進めた。技術向上にも努め、ストレスを与えないような飼育環境を整えたり飼料にも工夫したのである。
 JA氷見市の杉本修一営農経済部長(58)は「全国にある他の産地と勝負できるレベルにしたい一心でした。苦労はあったが、どこにだしても恥ずかしくないものが出せるようになった」と振り返る。

氷見牛コロッケを揚げる田中さん=氷見市朝日丘

●多い市外の客
 氷見牛は着実にブランド力を付けており、意外なところで成果が表われている。生産者の田中賢治さん(58)が氷見市内で経営する氷見牛専門店「たなか」では、五年前の開店時から氷見牛を使ったコロッケを販売している。当初はそれほど売れなかったが、氷見牛の知名度が定着するのに合わせて、一日平均で三百個売れる人気商品に成長した。面白いのは市外のお客が多いことで、平日は約四割、土日祝日は六割を占めている。
 田中さんは「コロッケという気軽に食べられる料理は氷見牛のPRにも役立つ。ファンをもっと増やしたい」と意欲的だ。田中さんは生産農家でつくる氷見市畜産組合肉牛部会の会長を務めており、産地活性化に向けたアイデアをめぐらせる。
 JA氷見市では昨年から氷見牛と立山連峰の写真をデザインしたポスターを業務車に張って走らせている。高岡コロッケ実行委員会も四月から車体全体にコロッケが描かれたラッピングバスの走行を始めた。双方の関係者とも地元の食材を発信しようという思いでは同じである。氷見牛コロッケが人気を集めたことは、全国ブランド化に向けた連携の可能性を示している。

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