高岡コロッケ物語

高岡コロッケ物語(10)

第1部・浪漫あり
調理のこころ(上) 40年間、頑固に自分流

大きな鉄釜でジャガイモをゆでる嶋林さん=高岡市二上新の自宅納屋
店の調理場でコロッケのタネを作る嶋林さんの長男健一さん=高岡市あわら町

 高岡のコロッケは、まちなかにある精肉店が支えてきた。高岡市あわら町の裏通りにある丸長精肉店もその一つである。戦前からの老舗に比べて歴史は浅いが、四十年前の開業以来、コロッケにこだわり続けてきた。「コロッケは丸長に限る」と遠方から買いに来るコロッケファンも少なくないという。
 主人の嶋林邦夫さん(71)は、現役では業界最古参の一人である。市役所や建設会社を経て一九六七(昭和四十二)年に店を始めた。高校では農業科で畜産を学んでおり、「これからは肉の需要が増えると考え、肉屋をやろうと考えた」と振り返る。

●直径1メートルの鉄釜
 嶋林さんのこだわりを象徴するのが、ジャガイモをゆでる大きな鉄釜だ。もともとは農耕馬の餌をたく釜で、直径約一メートル。店を始めた時に五個入手したが、既に三個を使いつぶした。
 いま使っているのは昨年夏に下ろしたものだが、嶋林さんは「残る一個もだめになれば、アルミ製の大釜を使う」と話し、調理機械を入れることは考えていない。
 大釜を使うのは、値段を安く抑えることができるからだ。「大工から木くずをもらってきて、まき代わりに使っている。一、二年分は納屋にためてある」と嶋林さん。車で走っていて、建築現場が目に入ると、気軽に立ち寄り、木くずを分けてもらう。
 嶋林さんは週に二回のペースでジャガイモをゆでる。一回の量は約三十キロ。個数にして七百個分ほどで、おおむね三日で売り切れる。作業は同市二上新の自宅納屋で行っており、朝七時ごろから一時間ほどかけてゆで上げ、店に搬入する。

●塩と砂糖だけ
 ゆで上がったジャガイモはミンチ用の機械でつぶし、味を付けるが、ここにも嶋林さんのこだわりがある。「味付けは塩と砂糖だけ。人工調味料は一切使わない。やはり、自然の味が一番いい」。
 昨年、成形用の機械が老朽化で壊れ、新しい機械を入れた。ところが、機械から出てくる一個の大きさが従来より大きくなり、それまでの一個三十円の価格をやむなく四十円に値上げした。
 四十年前の開業以来、嶋林さんはコロッケをはじめとする揚げ物などの総菜に力を入れてきた。総菜と肉の販売額はほぼ半々で、精肉店としては総菜の比重が高い方だという。総菜はすべて注文を受けてから、その場で揚げている。
 「一徹に頑固な商売をしてきたが、少し光が当たってきた。あまりもうけに走らなかったのが良かったのかもしれん」。コロッケに注目が集まるようになった昨今の、嶋林さんの偽らざる心境である。

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